Travianというゲームについて(1)

 その昔、Travianというゲームをやっていた。自分の人生で最もハマったゲームの一つである。

 どのようなジャンルのゲームと説明したらいいのか悩ましいが、箱庭系のRTSといえばいいだろうか。各プレイヤーが全プレイヤー共通のマップに所在する自らの村を発展させ、村を増やし、兵士を作って戦争するといったゲームシステムそのものは、ありふれたものと言ってもいいかもしれない。

 もちろん、これは大まかなゲームシステムの説明に過ぎない。Travianというゲームについて語ることがあるとすれば、それは実際にプレイヤー間でどのようなゲームが成立していたのか、実際にプレイヤーがどのようなプレイを求められたのかではないかと思われる。これはきっと、このゲームにのめり込んだ人間にしか語ることができないだろう。

 わたしの思うこのゲームの特徴は、大雑把に言って以下のような点である。

①プレイヤーがゲーム内で所有するあらゆるものが、戦争によって破壊され得る

②安全な空間が時間的にも場所的にも存在しない

③攻撃を受けた際に自動で防衛のための処理が行われない

④兵士が餓死しないよう食糧を維持する必要がある

⑤一つのサーバーが数ヶ月程度で終了し、あらゆるデータが引き継がれない

  MMORPGでたとえるならば、PvPが生じない安置エリアが存在せず、ログアウトすることで攻撃を回避することもできず、受けたダメージに応じて装備・アイテムだけでなく、レベルやステータスを含むあらゆるものをロストするといえばいいだろうか。

 

 ひとまず集団戦の要素を捨象して説明するために、ごくシンプルな2ユーザー間での戦闘を具体例に用いたい。

 21個の村を保有するプレイヤーAがいる。首都Pの穀物生産量は6万/時であり*1その他の村の穀物生産量は9万(4500*20)/時である*2。Aは首都以外の拠点Qを主たる攻撃拠点としており*3穀物消費量8万程度の攻撃兵がQに所属している*4。また、拠点Q以外において、合計で穀物消費量4万程度の防衛兵を保有している*5

 ある日、Aがログインして首都Pを開くと、プレイヤーBから攻撃を受けていることに気がついた*6。慌てて他の村も確認すると、プレイヤーBの保有する村Sから、首都Pと攻撃村Qを含む10個の村に、それぞれ2時間後に着弾する30個の波状攻撃が向かってきていることが分かった*7*8。Aは考える。まず、向かってきている攻撃の規模を測り、反撃の目標を定めるために、攻撃元のSのほかBの保有するいくつかの村に、それぞれ1分程度の時間差で偵察を送る*9。この結果が出るまで30分程度を要するため、次に防衛のことを考える。首都Pと攻撃村Qへの攻撃がある以上、それ以外の村のことはひとまず考えない。攻撃元はS一つだから、攻撃村Qが今回の一連の攻撃で占領される可能性はなく*10、カタパルトによって施設が破壊され更地になることだけ防げればよい。これに対して、首都Pは穀物パネルを育てるためにかなりの資源を投じており、これが破壊されれば相当の痛手になるだけでなく、兵士の維持も困難になってしまう。そこで、全防衛兵のうち3万5000を首都Pに置き、残りの5000を1000ずつ分割して攻撃村Qへ向かってきている波状攻撃の間に差し込むことにした*11。そうこうしているうちに、偵察の結果が出る。Sの麦マイナスは2万程度なので、仮に実弾だとしても決して大きくない。Bの首都Tには穀物5万相当の防衛兵がいる。そこで、Aは、攻撃村Qの攻撃兵を露払いとして、その後に着弾する首都Pからの攻撃によって攻撃元のSを占領する攻撃を行うこととし、防衛の的を絞らせることがないよう首都P・攻撃村Q・初期村Rからそれぞれ実弾とあわせて15個の波状攻撃となるよう、首都T及び攻撃元Sを含むBの村のうち人口が一定以上の5個についてフェイクを撃つこととした。

 Bの保有するS村からの実弾は、首都Pでも攻撃村Qでもない純然たる資源村に着弾し、後続のカタパルト攻撃によって更地となった。他方で、Aの反撃もBによって阻まれることはなく、攻撃元だったS村を占領することに成功した。これはAの圧倒的勝利である。単なる資源村が一つ失われたことは、大きな痛手ではない。これに対して、今回の攻撃に用いられた攻撃兵を消滅させることは多大な戦果と言っていいだろう。Aは攻撃村Qで穀物が不足しないよう注意を払いながら内政を一通り終えると、ひとまず4時間程度の仮眠をとることにした。

 4時間後、Aが目を覚ますと、攻撃村QはBの保有する他の攻撃村Uと首都Tからの攻撃によって既に占領されていた。つまり、攻撃村Qにおいて保有していた穀物消費量8万程度の兵士を全て失ったことになる。これを取り戻すためには15~20日程度が必要である。Bもその間おおむね同じ速度で造兵するとすれば、差が埋まることは決してない。BがUにおいて保有していた攻撃兵は穀物10万相当であり、Aの防衛兵でこれを防ぐことは100%不可能である。翌日には、首都Pに集結したAの防衛兵が破られ、首都Pの穀物パネルは壊滅状態になった。それからの戦闘は一方的だった。Bは手当たり次第にAの資源村を破壊し、Aに出来ることといえば、少しでも防衛兵を生産し、露払いと後続のカタパルトの間に差し込み続けることだけである。その試みは時に成功することもあったが、せいぜい村の破壊を少し遅延させたに過ぎない。気がつけば、Aが保有している村は、施設がほとんど破壊された残骸のような村がいくつかあるだけとなっていた。兵士はもちろんほぼゼロである。Aは引退を決め、アカウント削除を決めた。これ以後ログインしなかったAの知るところではないが、アカウントの削除は申請から72時間の経過を要するため、残り僅かの期間も、かつてAのものだった村はただ略奪され、破壊されるだろう。

 

 実際のところ、多くのプレイヤーにとって、上記のAのようなシチュエーションはほとんど生じ得ない。それには2つの理由がある。第一に、呼び方はどうあれオンラインゲームでは一般的な現象であるが、大多数のプレイヤーは複数のプレイヤーからなる同盟へと加入する。そのため、同盟員の一人が攻撃されれば同盟が一丸となって反撃を行うという抑止力が、突発的な個人間の戦闘を大きく減少させることになる。第二に、そのような集団的な安全保障の下にないプレイヤーは、通常はゲーム開始から間もないうちに、有力な同盟によって駆逐されるからである。村と村の距離がそのまま攻撃に要する時間を規定するという仕様上、対処し難い攻撃を防ぐためには、たとえそれが初心者であろうと、味方でなければ排除する必要がある。

 

*1:Travianの村には建築物を設置する中心部と、生産を行う周辺部がある。生産を行う周辺部には18個の生産パネルがあり、資源を投じることでレベルを10まで上げることができるが、首都に設定された拠点のみは生産パネルのレベルをそれ以上に大きく上昇させることができる。村の生産パネルの種類にはいくつかパターンがあり、Travianにおいて最も重要な資源は兵士を維持するための穀物であるため、穀物生産パネルの多い村を首都とするのが通常である。

*2:標準的な生産パネル配置の村であれば、穀物生産量は4500/時であり、課金によって資源ブーストを掛けると1.2倍の5400/時となる。各村の発展の程度に応じて住人の人口分の穀物が消費されるため、そこからおおむね700~900程度引かれた数字が、村を1つ増やした際に増加する穀物生産量である。

*3:村が完全に破壊され更地になるか、その村の所有権が占領によって移転すると、その村に所属していた兵士が全て消滅するが、首都だけは占領による所有権の移転が発生しない。また、首都では建造物の強度を上げカタパルトによる破壊の程度を抑える石工を建設することが可能であり、防衛という観点では大きな魅力がある。他方で、攻撃の観点では、通常の兵舎・馬舎に加えて造兵を行う大兵舎・厩舎は首都に建設することができず、大兵力を運用したい場合には必然的に首都以外に攻撃拠点を作ることになる。この場合、首都とは異なり占領によって所属する攻撃兵が消滅させられる危険がある。

*4:Qに所属する攻撃兵を首都Pに移動させると、毎時2万ずつ穀物が減少していくこととなる。穀物を保管する穀倉の容量がたとえば16万であるとすると、一杯まで他の村から穀物を輸送したとしても、8時間程度放置すれば穀物が底をつき、兵士が餓死していくことになる。もちろん、首都Pに移動させない場合には、毎時8万近い穀物減少となるため、数時間もすれば餓死が発生してしまう。

*5:攻撃側は一つの村に所属しているまとまりを単位として1回の戦闘処理が行われるが、防衛側は兵士を防衛する村に移動させることによって、複数の村に所属している兵士によって防衛が可能となる。そのため、複数人で一箇所の拠点に大量の防衛兵を重ねる場合には、それを攻撃側が突破することはおよそ不可能である。

*6:攻撃側のプレイヤーが、自らの所有する村から防衛側のプレイヤーに所属する村へと攻撃を開始すると、両村の距離と兵士の移動速度に応じて戦闘処理までの時間が確定し、防衛側のプレイヤーは攻撃開始時点には直ちに攻撃をいつ受けるかが分かることになる

*7:防衛側のプレイヤーは特殊な秘宝を所持していない限りは、攻撃の着弾時間は分かるものの、その内訳を知ることはできない。そのため、穀物換算5万の本命の攻撃なのか、カタパルト1つだけの偽装された攻撃であるのかの判別を機械的に行うことはできない。防衛兵を分散させて迎撃することは不可能である以上、どの攻撃が本命なのかを判断する必要がある。このような偽装攻撃をフェイクという。

*8:波状攻撃とは、その名の通り着弾時間が23:15:02、23:15:02、23:15:03、23:15:03、23:15:04……となっている場合のように、短時間のうちに連続して行う攻撃である。これは、建築物を破壊するためのカタパルトは1回の攻撃あたり2つの建物を破壊することしかできず、1つの村を一回の連続した攻撃で更地にするためには20回前後の攻撃が必要となるところ、1つ目の攻撃を攻撃兵の大部分とカタパルトで構成して露払いとし、防衛兵が一掃されたところで後続のカタパルト攻撃群によって村に甚大なダメージを与えるために行われる。

*9:時間差偵察は必ずしも全てのプレイヤーにとって周知のプレイングではなかったが、極めて重要である。Travianにおいて偵察は軽視される傾向にあるが、同一の村に対して時間差で2つの偵察を行うことによって、その前後の資源の増減から、穀物消費量を知ることができる。たとえば、1分の間に穀物1000の消費が認められる場合には、現在その村にいる兵士・その村のオアシスにいる兵士・その村から攻撃中の兵士の穀物消費量の合計が6万程度であることが明らかになる。偵察の間に穀物の輸送が行われない限りは、これによってほぼ正確にその村からの攻撃の規模を測定することが可能になる。

*10:例外的な状況を別とすれば、占領するためには2つ以上の村からの攻撃が必要である。

*11:施設破壊を目的とした波状攻撃の場合、露払いとなる攻撃と後続のカタパルトによる攻撃の間には時間差が生じてしまう。そこで、その間の時間に防衛兵が到着するように調整することによって、露払いによって防衛兵が蹴散らされることを防ぎつつ、施設破壊のみを効果的に防ぐことが可能になる。これを差込みという。